糖尿病・高血圧症・高脂血症などの生活習慣病と消化器系疾患を中心とした診療を行っております。

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成人病News



J-DOIT3研究成果 近く発表

(公財)朝日生命成人病研究所附属医院

所長・院長 岩本 安彦

J-DOIT3の最終報告 間近に迫る

 J-DOIT3はJapan Diabetes Outcome Intervention Trial 3の略称で、2006年に厚生労働省が2型糖尿病の発症と合併症の予防をめざして立ち上げた3つの研究課題のうちの1つです。 J-DOIT3は高血圧と脂質異常症を有する2型糖尿病患者を対象に、「糖尿病合併症を30%抑制すること」をめざして進められた臨床試験で、他に、「境界型から糖尿病への進展(悪化)を50%抑制すること」をめざして行われたJ-DOIT1と、「糖尿病治療中断率を50%抑制すること」をめざして行われたJ-DOIT2があります。
 2016年春、約10年間にわたって行われたJ-DOIT3の臨床試験が終了し、その後解析が進められてきましたが、このたびポルトガルのリスボンで開催されます欧州糖尿病学会(EASD)の特別プログラムにおいて、J-DOIT3の研究リーダーを務められた門脇孝先生(東京大学教授、日本糖尿病学会理事長)が最終報告を発表されます。
 近年発表された、2型糖尿病患者を対象とした合併症の発症予防をめざした海外における大規模臨床試験の結果が、必ずしも満足すべきものではなかっただけに、わが国のJ-DOIT3の結果が世界的にも大きな注目を集めています。

J-DOIT3の概要

 J-DOIT3は前述のように、高血圧と脂質異常症を有する2型糖尿病患者2,542人を対象に、強化療法群(1,271人)と従来治療群(1,271人)の2群にランダムに分け、血糖コントロール(HbA1c)、血圧、脂質の目標値をそれぞれ下表に示すように定めました。従来治療群の治療目標値は日本糖尿病学会が定めている現行の目標値ですが、強化療法群の治療目標値は血糖、血圧、脂質値ともに、より厳しく設定されました[下表]。両群ともにコントロール目標をめざして段階的に治療を強化することとし、とくに強化療法群では血糖測定器、血圧計、運動量測定器を貸与するとともに、栄養指導を頻回に行うなど、生活習慣改善に力を注ぐこととしました。
 J-DOIT3の主要評価項目としては「心筋梗塞、冠動脈バイパス術、経皮的冠動脈形成術、脳卒中、頚動脈内膜剥離術、経皮的脳血管形成術、頚動脈ステント留置術、死亡のいずれかの発生」があげられました。
 EASDで9月15日に行われる報告、および9月24日に日本で行われますJ-DOIT3成果報告会では、2群の治療経過、とくに血糖、血圧、脂質データの推移と臨床試験中にみとめられた評価項目としての各イベント発症、さらに、重要な有害事象としての低血糖などについて詳細に報告されることと思います。

表 J-DOIT3における血糖(HbA1c)、血圧、脂質の目標値
強化療法群 従来治療群
血糖 HbA1c <5.8% HbA1c <6.5%
血圧
(mmHg)
収縮期 <120 かつ 拡張期 <75 収縮期 <130 かつ 拡張期 <80
脂質
(mg/dl)
LDL-C <80 LDL-C <120
(冠動脈疾患の既往のある場合は)
LDL-C <70 LDL-C <100


 J-DOIT3における介入試験は全国81施設に通院している2型糖尿病患者2,542人の多大な協力と、多くの医師とメディカルスタッフの努力によって遂行されました。イベント発生が当初予測に比べて低かったこともあり、介入試験の期間はかなり延びましたが、日本発の糖尿病の治療と合併症に関する重要なエビデンスが得られたことと確信しています。
 本研究の遂行は厚生労働省、AMEDによる公的研究資金の支援、国際協力医学研究振興財団、日本糖尿病財団、さらに多くの企業からの多大な財政的支援があって初めて可能となったものです。
(J-DOIT3の研究成果については、改めて“成人病News”でとりあげる予定です。)

 
 

心不全について 〜「心腸連関」から病態に迫る〜

循環器内科部長 加茂 雄大

はじめに

 はじめまして。本年4月より循環器内科部長に就任いたしました加茂雄大です。
 循環器内科では、高血圧・虚血性心疾患・不整脈・心筋症・心臓弁膜症・心不全など循環器疾患全般の診療を行っています。特に高血圧や心疾患の長期管理を要する患者さんはぜひ受診して下さい。
 さて、わが国の心疾患による死亡数は、死因別では悪性新生物(がん)に次いで2番目に多くなっています。全ての心疾患の終末的な病態は心不全と呼ばれています。今回は心不全について解説したいと思います。

心不全の病態

 心不全は、息切れや浮腫(むくみ)などの症状によって日常生活に重大な支障をきたし、また突然死も含めて死亡率が非常に高い病態です。心不全では、心臓を構成する心筋に長期的に障害が生じることによって心臓のポンプ機能が低下し、症状が出現するようになります。心不全の原因となり得る疾患は多岐にわたりますが、高血圧・糖尿病・動脈硬化症・慢性腎臓病などの生活習慣病は心不全の危険因子として知られています。
 慢性心不全の病期はステージA〜Dまで4段階あります。ステージAは高血圧や糖尿病のような危険因子があるが心臓の構造異常はない状態、ステージBは心肥大のような心臓の構造異常があるが息切れのような症状はない状態です。心不全による症状が出現すればステージC以降になります。

心不全の予防および治療

 ステージA〜Bでは症状はありませんが、心不全による症状の出現および死亡を防ぐためには、このような早期から治療を行うことが重要です。具体的には、塩分制限を中心とした食事・定期的な運動・禁煙・節酒といった生活習慣の是正、および高血圧や糖尿病に対する薬物治療、さらに必要に応じて心臓の構築変化(リモデリング [※下注1])の進展を防ぐ薬物治療を行うことが推奨されます。つまり、生活習慣病を早期から治療することは、心疾患による死亡を防ぐためにも極めて重要なことなのです。
 心不全の病態が進行し、息切れや浮腫の症状が出現してステージC以降にいたると、生活の質(QOL)が大幅に低下し、症状がひどいために何度も入院を繰り返す場合もあります。慢性心不全に対する治療薬は有効性が証明されているものがいくつか存在しますが、驚くべきことに最近10年間で新しく登場した治療薬はごくわずかしか存在しません。既存の治療法では心不全患者さんのQOL向上や死亡率改善がまだまだ十分ではありませんが、慢性心不全に対する新しい治療法の開発は遅れていると言わざるを得ません。
  ※注1「リモデリング」:一般的に「つくり直すこと」を指すが、医学の分野では、細胞のつくり直しに
   よって、臓器が分厚くなっていく状態をさすことが多い。心不全に関係する高血圧や弁膜症など、
   心臓へのあらゆる負荷に対して、心臓の構築に変化が起こることを「心臓リモデリング」という。

心不全の病態における「心腸連関」

 従来は、「心不全は心臓の異常が原因」という観点から心不全の病態研究が進められてきました。しかし、「心不全は全身の臓器の異常が関わっている」という観点からもう一度心不全の病態をとらえ直す必要があると私は考えています。全身の臓器の中でも、心不全の病態と関連すると従来考えられていなかった「腸」に私は注目しました。
 腸には、免疫系・末梢神経系・内分泌系・微小血管系の複雑なネットワークが張り巡らされています。さらに、腸内細菌叢はこれらのネットワークを介して健康に多大な影響を及ぼし、腸内細菌叢の構成異常が幅広い疾患の病態に関わっていることが近年分かってきています。私は心不全患者さんの糞便中の腸内細菌叢を解析し、心不全では腸内細菌叢の構成異常があることを今年世界で初めて報告しました。その後ドイツからも同様の報告があり、私の研究結果を裏付けるものになっています。
 心不全では腸および腸内細菌叢の異常が起こり、これらの異常が心不全の病態に影響を及ぼすという新しい仮説を提唱し、「心腸連関」と名付けました。現在、「心腸連関」を実証しそのメカニズムを解明するために、研究を進めています。この研究によって心不全の病態研究にブレイクスルーがもたらされ、腸または腸内細菌叢を標的とした薬剤や食事による全く新しい心不全治療法の開発につながることが期待されます。

 
 

腸内細菌と生活習慣病

消化器内科部長 井原 聡三郎

腸内細菌が生活習慣病を改善する?

 人間の腸には100兆個ほどの大量の細菌が暮らしており、人間と共生しています。腸内細菌の中には、食事の消化吸収を助けてくれたり、免疫力を高めてくれたりする善玉菌がいます。一方で、腸に炎症を起こしたり、肥満症・糖尿病・心臓病などの生活習慣病の原因となったりする悪玉菌がいます。加齢や不規則な生活習慣など様々なストレスによって、善玉菌が減って、悪玉菌が増えてしまいます。
 マウスを用いた腸内細菌と肥満症の研究結果から、腸内細菌の驚くべき能力が分かってきました。痩せているマウスの腸内細菌を肥満マウスの腸に移植すると、なんと肥満マウスが痩せるという興味深い研究報告があります。マウスと同じように、痩せている人の腸にも代謝を改善して「痩せる」腸内細菌がいることが、双子の腸内細菌の研究などから分かってきています。
 その他にも、ある特定の細菌が生活習慣病を改善する可能性が期待されています。糖尿病患者の腸内において "Akkermansia Muciniphila" という細菌が健常者と比べて減っていることが報告されました。 A. Muciniphila は、腸粘膜を覆っている粘液層というバリア層に存在します。 A. Muciniphila は粘液を栄養源にして、腸内の代謝を整える働きがあり、糖尿病などの生活習慣病になるのを防いでくれているのかもしれません。

腸内環境を整えるには?

 マウス実験のレベルでは A. Muciniphila を摂取することで代謝が改善することが報告されていますが、残念ながら人間に A. Muciniphila を摂取して糖尿病を予防する治療方法はまだありません。しかしながら、ビフィズス菌や乳酸菌に代表されるような善玉菌を摂取することで腸内環境を整えることは可能です。ヨーグルトなどで直接的に善玉菌を摂取する方法の他に、野菜・果物・豆類など食物繊維を多く含む食事を摂取することも有効です。善玉菌にとって食物繊維は栄養源になり、悪玉菌の増殖を抑えてくれます。逆に、肉や油物などの高脂肪食は善玉菌を減らし、悪玉菌を増やしてしまいます。また、規則正しい生活や適度な運動は腸内環境を整えるために重要で、生活習慣病の予防につながります。

当研究所での腸内細菌の研究

 当研究所の消化器部門では、腸内細菌が腸内環境や免疫力を整える作用に注目し、研究を行っています。特に腸内細菌と免疫細胞(樹状細胞)の関係について研究しています。先に述べた A. Muciniphila についても調べたことがあります。 A. Muciniphila は通常の培養方法では育ってくれないため、研究しにくい面があります。しかしながら、DNAを用いた解析方法の開発により、たとえ培養できなくても A. Muciniphila が増えているのか、減っているのかDNAレベルで知ることができるようになっています。今後、腸内細菌をターゲットとした生活習慣病の予防や治療が発展することを期待しながら、日々研究を続けています。